でかいトロフィーが欲しいだけの動機で参加して何が悪い…
ハウルとレモンにサーカスの象の鎖の話をした際、合わせて、
「あなた方二人は、この象と一緒。弱かった時の自分と違うのに、練習しなかった時と違うのに、自分の体や技術が成長していることに本当の意味で気づいてない…。だから試合途中に自信がなくなるのだ…。」
「どうか早く、その「鎖」を自らの力で引きちぎり、相手に勝って欲しい…。」
と伝えたのだ…。
それではレモンの試合、1回戦から。
セコンドは先程試合を終えたハウルが息を整えて、妻と一緒に入る。自らの勝利で心も前向きなのか珍しく待機場所でレモンの背中を叩き、なにやらアドバイスを送る。親としては嬉しい光景だ。
一抹の不安は顎尻おやじの予想
が外れることを祈るのみ…。そして試合開始!!開始早々レモンが気遅れしている感がある。
弱気
になっているのか…。それを突いてか相手選手が前に出て積極的に蹴りで攻める。そして数発、レモンの顔面を襲う
上段蹴り
が放たれた。わずかにレモンが交わすのだが、それに構わず相手選手は
後ろ回し蹴り
など伸び伸びと技を繰り出し、そして上段、上段と攻めて来た。そしてその一発が
レモンの顔
に被弾する。すぐ様、
技あり
の旗が副審から上がり、主審も
技あり
を取った。展開が早いその流れに乗れてないレモン。体格では遜色ないも
気
が勝っている相手選手。開始早々、顎尻おやじの嫌な予感が的中してしまった。仕切り直しで開始線から試合が再開された瞬間、レモンに
トドメを刺そう
と猛突進してきた相手選手の顔面に、それこそ仰け反る様に倒れるのでは?と思うほどの
レモンのカウンター上段
が炸裂し、
技あり返し
でポイントを取り返したレモン。本来ならそこからイケイケに勝負しに行かなけれいけないレモンがやっと下段を思い切り決めるも、お互いの選手が
上段で技あり
を取ったことに意識が行き、更にもう一本技ありを取りたいが為に、
上段蹴り
を狙いすぎる戦いになっていた。
レモンからすれば下段、突きに繋げたいところだが、どうやら相手の土俵で戦っている感がしていたところに、相手選手の素早い
胴回し回転蹴り
がレモンの顔にヒット!!し
合わせ一本
となったのだ。あっけなく終わってしまった試合。技ありを取り返したまでは良かったが、セコンドの妻とハウルの
「上段ガード」
の指示がいつもなら聞こえているレモンであるが、
上段合戦に夢中
になってしまっていて聞こえていたのだろうか…。泣き崩れるレモン。セコンドにいたハウルでさえ、技ありを取り返した時は、
やった!!イケる!!
と思ったらしいのだが…どうも最近、顎尻おやじは全てに置いて予感が的中してしまうところがあるのだが…いやはや言葉もない。
後でレモンと戦った選手が次のシード選手にも勝ち、勝ち進んでいく中で、そのお父さんと話す機会が得られた。相手選手のお父さんは息子とレモンの写真を撮影後、
「実は、名古屋から大渋滞覚悟で大阪に来たんですよ!!」
「何時間かかってもエエと腹を括りましてね!」
「リアルの本戦ならまだしも、予選会で遠方来るとは思ってもなかったのですが…」
「子供の勝つ気を信頼して来たんです…。」
とサラッと嫌味なく顎尻おやじに告げた。そんな話を聞き、ウチのハウルやレモンにそれ以上の
戦う覚悟
の様なものがあったのか…もし問われたら恥ずかしくて返せない…。
ここ1ヶ月で5試合している中の一つの試合ぐらいにしか思ってないかも…。恵まれているというか、試合慣れして欲しいので多数の試合に出ているのだが、
違う嫌なものに慣れてしまっている
ような感じが、その話を聞いて顎尻おやじの背中を襲って来た。
そして、ハウルの2回戦。過去一度対戦し、
完敗…
グラチャン3位の経歴を持つ星くん(今からこの名前で行く)
が相手。確かにグラチャン3位の経歴は凄いのだが、一度ハウルと対戦した時の試合内容では
ハウルが8割能力を出せれば勝てる(完全な親バカか…)
と思ったのが顎尻おやじの正直な感想。だから試合前から
「星くんに勝って、宮野道場、エース君と決勝戦を戦おう!!」
と大会前から言い続けて来た。そしてハウルに
「絶対、星くんに勝てる!!勝てる!!」
と事あるごとに言って来たのだ。
そして試合前に待機場で見る
グラチャン3位 星くん
は少し体が大きくなったものの、相変わらずエエ男って感じが伺えた。そしてハウルと星くんの試合前に、ハウルが今大会目標としていた
宮野道場の重量級エース エース君
が力づくの上段蹴りをもらい
大番狂せの負け
を喫していた。エース君に勝った相手選手のセコンドは
飛び上がらんばかりの喜び様
だ。そしてアップ場でエース君のお父さんが声を掛けてくれた際の話が頭をよぎった。
「こいつポカが多いから怖いんですよ」
って言いながら息子に気合いを入れさせるエース君のお父さんの顔が浮かぶとともに目の前にいるエース君のお父さんの
悔しさで苦虫を噛む様な顔
をしながらセコンド席から退席するのを横目で見てしまった。そして顎尻おやじはハウルに
「やっぱり試合はやらないと分からんもんや!!」
「チャンスや、取れよ!!(トロフィーと言いたかったが固くなるといけないので…)」
と囁いた。
開始線に静かに着くハウル。構えはいつもの悪い癖、腰が浮いている
棒立ち君
だが開始早々、動くハウル。ハウルの上段蹴りから試合が開始された。
動きはいい
イケる!!!
と直感で感じた顎尻おやじ!!セコンドのレモンもそう感じていたのか、早々から悲しさも忘れて檄を飛ばす。そして
星くんの顔をハウルの上段
がかすめる。そして若干、星くんの体勢が崩れた瞬間、瞬時に間合いを詰め突きなどの攻撃で
星くんを場外に…。
放り出した。今まで初戦や、試合開始早々に難があるハウルだが、見違える程の動きの良さ。そんな動きをされると親でさえ勘違い??させられる。
これはイケる
とセコンドに入っていた妻でさえ思ったらしい。(後で聞いたらね。)
そして開始線から更に試合が再開されるも、先手
ハウルの上段
から入っていた。そして攻める、攻める。試合も中盤に差し迫った時に、またハウルの攻めで星くんが
ジリジリ
と下がりだし、もう一息というところで星くんが体を交わしハウルと入れ変わった。そこで
潮目
が変わった。
今までハウルの猛攻に下がり一辺倒であったが、先ほど対戦した宇宙(ソラ)君と一緒でハウルの体の周りを
ダンサー
の様に回りだした。ここら辺の切り替えが試合中に出来るのが
グラチャン3位の実力
なのだろう。
ハウルの攻撃が次第に空振りが多くなり、逆に相手のローが決まりだす。相手選手を突きで押すハウルに下段の連打で対抗する星くん。
次第に星くんの下段でハウルの足が流れる。
見た目に非常に良くない。それが続く、続く。これに対して変化できないのが経験の差か…。そして初め押していたハウルの攻撃の印象より、
星くんの下段での攻撃
の印象が上回った気がした。そして判定…。
星くんの勝利
で終わった…。項垂れるハウル。それ以上に顔を赤らめながら怒りを抑えてセコンドから降りてくる
妻
レモンは
あ〜やってしまったなぁ…ウチの兄貴!!
て感じで早々に退場して来た。ハウルが顎尻おやじに会った際に放った言葉が
「あれで負けるの???」
悔しさとも第三者的な解説なのか分からない言葉だった。
顎尻おやじも
惜しかった…
という言葉をその場で言いかけたが、言葉を飲ん
でしまった…。関西流に言うと妻は
怒り満チクリン
であった。
ハウルにもっと
勝ちたいという強い意志があれば…。
あのちょっとした変化に対応できれば…。
腰を落としてドッシリと構えれていれば…。
早い段階で相手の心を折っていたら…。
全てタラレバではあるが、久しぶりに
惜しい試合
を落としてしまった。ここに手が届けば
一番大きいトロフィー
を手にしていたかもしれない…。それ以上に、
グラチャン、3位の星くん
に勝ったという自信がつく。確かに以前の星くんとの試合よりは
格段にいい試合
ではあった。あったのだが勝てた試合だけに…。
逃がした魚は大きい
のだ…。
汗だくになり手にしたのが
魚の鱗
であったとは悲しい現実であった。しかし、一時であろうとも
グラチャン、3位の星くん
に勝てるかもと思えたのはハウル自らもそうであったに違いない。それは確実に差を縮めて来た練習の賜物である。
一瞬、ほんの一瞬、サーカスの象が鎖を切り杭をブチ壊した
感があった。あったのだが…また自らサーカスの安住の地??に戻ってしまった…。
どうなのだろう…
この試合で「鎖」は完全に引き千切られたのだろうか…。
次の試合がその試金石となるように思える。
非常に動けていたハウル、課題は相当残ってはいるが、これまで以上に動けていたのは確か…。
完全に自らの安住の地を求めて歩ける様になって欲しい…。
そう心から思った一日でした…。
それでは、また…。つづく。
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